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筋膜リリースと検索すれば、ピンからキリまでいろんな商品が出てきます。はじめは3980円ぐらいの無名メーカーのものを買いましたが、使用していたら本体が熱を持ち、焦げ臭いにおいがしたので失敗。2台目にド○ター社のものを買い、これはテレビでも紹介されている気持ちの良い効果を得られるものでしたが、強めに押しつけると止まってしまうのが難点で、結果、友達にあげました。そして今回、テレビや雑誌で見て、このマシーンに出会ったのですが、レベル1や2でもしっかりほぐれ、強めに押しつけても止まらずしっかり動いてくれるので感激しました。テレビを見ながら背中や腰、脚などをしっかりほぐしています。コンパクトで持ち歩きにも適しています。長持ちすることを期待しています。
ヘパーデン結節で手のこわばりが有り、少しでも楽になるなら、、と思い購入しました。購入以来気持ち良くて毎日使っています。その後指を骨折した妹にプレゼントした所大変喜んで使ってくれています。 使用音に関しては家で使っている血圧計のような音がしますが、個人的にはそれほどうるさく感じません。   追記 購入して40日経ちました。ヘパーデン結節がかなり良くなりビックリ! 仕事柄特に右手を酷使して20年、右手の変形が酷く左手も見るだけでヘパーデンと分かる状態、まして還暦超えしているので治る分けが無いと思っていました。 変化に気付いたのは30日過ぎた頃、明らかに左手の第一関節の曲がりが小さくなり、右手もかなり良くなっている事に気付きました。久しぶりに会った娘に手を見せた所「めちゃくちゃ良くなってるね、悪い時の写真撮った?」と驚いていました。(友人や夫もびっくりしています)こんな事なら使用前の写真を撮って置けば良かったです。10日前に写真を撮ったので、今後大きく変化する事が有れば写真投稿させてもらいます。(あくまでも個人の感想です)
母の日に購入。強さが3段階で調節出来るし、指、手の平、全体ってメニューも選択出来る。温めも調節出来る。母が指が曲がってしまうやつになってしまって、痛がっていたので少しでも緩和出来ればと思って購入したけど、気持ちいいみたいで1日に何回もやってその度に寝落ちしてる(笑)夜のうちに充電してる。軽い。充電しとけばコードレスで使えるのもいい。手が小さくても丁度良く位置を自分でずらしたりして使ってるみたい。空気圧でギューってしてくるマッサージ。強めが好きな人なら痛くないと思う。圧迫してくるから1番強いとそれなりに痛い。母はもっと強くていいらしい(笑)あと地味に温め機能が良い。親指の付け根が凝ると肩凝りと首凝り頭痛みたいになるから本当に買って良かった。音は決して静かではないけどテレビ観ながらとかなら気にならない。マッサージ機の音って感じ。私も毎日借りて使ってる。両手やりたいし、足のも欲しい(笑)
2000円ほどで購入した安いマッサージガンを使ってましたが、満充電してもちょっと押しが強いとスグ止まってしまいイライラし購入を決意。 皆さんのレビューと、高レビューの多さでこちらに決めました。結果。大正解。顔にも使える方にしようか悩みましたが顔は別で美顔器もあるし。。。とボディコンディショニングを重視してこちらに。レビューにあった、レベル1でも十分?またまた。それは無いっしょ笑!!と思ってましたらとんでもない。え?これレベル1??!ってなりました????感動です。。商品説明通り、ちょっと押しても止まることなくめちゃくちゃイイ!!!!PayPay保険適用で5年プランにもしたので長く付き合っていけるかなと!悩んでる人はマジで買った方がいい!

いろいろな書籍を新字新仮名でテキスト化します。

       猫の墓

 早稲田《わせだ》へ移ってから、猫が段々|瘠《や》せて来た。一|向《こう》に小供と遊ぶ気色《けしき》がない。日が当《あた》ると縁側《えんがわ》に寝ている。前足を揃《そろ》えた上に、四角な顎《あご》を載《の》せて、じっと庭の植込《うえこみ》を眺めた儘《まゝ》、いつ迄も動く様子が見えない。子供がいくら其《そ》の傍《そば》で騒いでも、知らぬ顔をしている。小供の方《ほう》でも、初めから相手にしなくなった。此《この》猫はとても遊び仲間に出来ないと云わん許《ばか》りに、旧友を他人|扱《あつか》いにしている。小供のみではない。下女《げじょ》はたゞ三度の食《めし》を、台所の隅《すみ》に置いてやる丈《だけ》で其《そ》の外《ほか》には、殆《ほとん》ど構い附けなかった。しかも其《そ》の食《めし》は大抵近所にいる大きな三毛猫《みけねこ》が来て食って仕舞った。猫は別に怒《おこ》る様子もなかった。喧嘩《けんか》をする所を見た試《ため》しもない。たゞ、じっとして寝ていた。然《しか》し其《そ》の寝方に何所《どこ》となく余裕《ゆとり》がない。伸《の》んびり楽々《らく/\》と身を横に、日光を領《りょう》しているのと違って、動くべきせき[#「せき」に傍点]がないために――是れでは、まだ形容し足りない。懶《ものう》さの度をある所迄通り越して、動かなければ淋《さび》しいが、動くと猶《なお》淋《さび》しいので、我慢《がまん》して、じっと辛抱《しんぼう》している様《よう》に見えた。其《そ》の眼附《めつき》は、何時《いつ》でも庭の植込《うえこみ》を見ているが、彼れは恐らく木の葉も、幹《みき》の形も意識していなかったのだろう。青味がゝった黄色い瞳子《ひとみ》を、ぼんやり一《ひ》と所に落ち附けているのみである。彼れが家《うち》の小供から存在を認められぬ様《よう》に、自分でも、世の中の存在を判然《はっきり》と認めていなかったらしい。
 夫《そ》れでも時々は用《よう》があると見えて、外《そと》へ出て行《ゆ》く事がある。すると何時《いつ》でも近所の三毛猫《みけねこ》から追懸《おっか》けられる。そうして、怖いものだから、縁側《えんがわ》を飛び上がって、立て切ってある障子《しょうじ》を突き破って、囲炉裏《いろり》の傍《そば》迄逃げ込んで来る。家《うち》のものが、彼れの存在に気が附くのは此《こ》の時|丈《だけ》である。彼れも此《こ》の時に限って、自分が生きている事実を、満足に自覚するのだろう。
 是れが度《たび》重なるにつれて、猫の長い尻尾《しっぽ》の毛が段々抜けて来た。始めは所々《ところ/″\》がぽく/\穴の様《よう》に落ち込んで見えたが、後《のち》には赤肌《あかはだ》に脱《ぬ》け広がって、見るも気の毒な程にだらりと垂れていた。彼れは万事《ばんじ》に疲れ果てた、体躯《からだ》を圧《お》し曲げて、しきりに痛い局部を舐《な》め出した。
 おい猫がどうかしたようだなと云うと、そうですね、矢っ張り年《とし》を取った所為《せい》でしょうと、妻《さい》は至極《しごく》冷淡である。自分も其《そ》の儘《まゝ》にして放《ほう》って置いた。すると、しばらくしてから、今度は三度のものを時々|吐《は》く様《よう》になった。咽喉《のど》の所に大きな波を打たして、嚔《くしゃみ》とも、しゃくりとも附かない苦しそうな音をさせる。苦しそうだけれども、已《やむ》を得ないから、気が附くと表《おもて》へ追い出す。でなければ畳の上でも、布団《ふとん》の上でも容赦《ようしゃ》なく汚《よご》す。来客の用意に拵《こしら》えた八|反《たん》の座布団《ざぶとん》は、大方《おおかた》彼れの為に汚《よご》されて仕舞った。
 「どうも仕様《しよう》がないな。腸胃《ちょうい》が悪いんだろう。宝丹《ほうたん》でも水に溶いて飲まして遣《や》れ」
 妻《さい》は何《なん》とも云わなかった。二三日してから、宝丹《ほうたん》を飲ましたかと聞いたら、飲ましても駄目です、口も開《あ》きませんという答《こたえ》をした後《あと》で、魚《さかな》の骨を食べさせると吐《は》くんですと説明するから、じゃ食わせんが好《い》いじゃないかと、少し嶮《けん》どんに叱りながら書見《しょけん》をしていた。
 猫は吐気《はきけ》がなくなりさえすれば、依然として、大人《おとな》しく寝ている。此《こ》の頃では、じっと身を竦《すく》める様《よう》にして、自分の身を支《さゝ》える縁側《えんがわ》丈《だけ》が便《たより》であるという風《ふう》に、如何《いか》にも切り詰めた蹲踞《うずく》まり方《かた》をする。眼附《めつき》も少し変って来た。始めは近い視線に、遠くのものが映《うつ》る如く、悄然《しょうぜん》たるうちに、どこか落付《おちつき》が有ったが、それが次第《しだい》に怪しく動いて来た。けれども眼の色は段々沈んで行《ゆ》く。日が落ちて微《かす》かな稲妻《いなずま》があらわれる様《よう》な気がした。けれども放《ほう》って置いた。妻《さい》も気にも掛けなかったらしい。小供は無論猫のいる事さえ忘れている。
 ある晩、彼は小供の寝る夜具《やぐ》の裾《すそ》に腹這《はらばい》になっていたが、やがて、自分の捕《と》った魚《さかな》を取り上げられる時に出す様《よう》な唸声《うなりごえ》を挙《あ》げた。此《こ》の時変だなと気が附いたのは自分|丈《だけ》である。小供はよく寝ている。妻《さい》は針仕事に余念がなかった。しばらくすると猫が又|唸《うな》った。妻《さい》は漸《ようや》く針の手を已《や》めた。自分は、どうしたんだ、夜中に小供の頭でも噛《かじ》られちゃ大変だと云った。まさかと妻《さい》は又|襦袢《じゅばん》の袖《そで》を縫い出した。猫は折々《おり/\》唸《うな》っていた。
 明くる日は囲炉裏《いろり》の縁《ふち》に乗ったなり、一日|唸《うな》っていた。茶を注《つ》いだり、薬罐《やかん》を取ったりするのが気味が悪い様《よう》であった。が、夜になると猫の事は自分も妻《さい》も丸で忘れて仕舞った。猫の死んだのは実《じつ》に其《そ》の晩である。朝になって、下女《げじょ》が裏の物置に薪《まき》を出しに行った時は、もう硬くなって、古い竈《へっつい》の上に倒れて居た。
 妻《さい》はわざ/\其《そ》の死態《しにざま》を見に行った。夫《そ》れから今迄の冷淡に引き更《か》えて急に騒ぎ出した。出入《でいり》の車夫《しゃふ》を頼んで、四角な墓標《ぼひょう》を買って来て、何か書いて遣《や》って下さいと云う。自分は表《おもて》に猫の墓と書いて、裏に此《こ》の下に稲妻《いなずま》起る宵《よい》あらんと認《したゝ》めた。車夫《しゃふ》は此《こ》の儘《まゝ》、埋《う》めても好《い》いんですかと聞いている。まさか火葬にも出来ないじゃないかと下女《げじょ》が冷《ひや》かした。
 小供も急に猫を可愛《かあい》がり出した。墓標《ぼひょう》の左右に硝子《ガラス》の罎《びん》を二つ活《い》けて、萩《はぎ》の花を沢山《たくさん》插《さ》した。茶碗に水を汲《く》んで、墓の前に置いた。花も水も毎日取り替えられた。三日目の夕方に四つになる女の子が――自分は此《こ》の時書斎の窓から見ていた。――たった一人《ひとり》墓の前へ来て、しばらく白木《しらき》の棒を見ていたが、やがて手に持った、おもちゃの杓子《しゃくし》を卸《おろ》して、猫に供《そな》えた茶碗の水をしゃくって飲んだ。それも一度ではない。萩《はぎ》の花の落ちこぼれた水の瀝《したゝ》りは、静かな夕暮《ゆうぐれ》の中に、幾度《いくたび》か愛子の小さい咽喉《のど》を潤《うる》おした。
 猫の命日《めいにち》には、妻《さい》が屹度《きっと》一切れの鮭と、鰹節《かつぶし》を掛けた一杯の飯《めし》を墓の前に供《そな》える。今でも忘れた事がない。たゞ此《こ》の頃では、庭迄持って出ずに、大抵は茶の間の箪笥《たんす》の上へ載《の》せて置くようである。

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 自分が此《こ》の下宿を出る二週間程前に、K君は蘇格蘭《スコットランド》から帰って来た。其時《そのとき》自分は主婦によってK君に紹介された。二人《ふたり》の日本人が倫敦《ロンドン》の山の手の、とある小さな家に偶然《ぐうぜん》落ち合って、しかも、まだ互《たがい》に名乗り換《かわ》した事がないので、身分も、素性《すじょう》も、経歴も分らない外国婦人の力を藉《か》りて、どうか何分《なにぶん》と頭を下《さ》げたのは、考えると今|以《もっ》て妙《みょう》な気がする。其《そ》の時|此《こ》の老令嬢は黒い服を着て居た。骨張って膏《あぶら》の脱《ぬ》けた様《よう》な手を前へ出して、Kさん、是れがNさんと云ったが、全《まった》く云い切らない先に、又一本の手を相手の方《ほう》へ寄せて、Nさん、是れがKさんと、公平に双方を等分《とうぶん》に引き合《あわ》せた。
 自分は老令嬢の態度が、如何《いか》にも、厳《おごそか》で、一種重要の気に充ちた形式を具《そな》えているのに、尠《すくな》からず驚かされた。K君は自分の向《むこう》に立って、奇麗な二重瞼《ふたえまぶち》の尻に皺《しわ》を寄せながら、微笑を洩らしていた。自分は笑うと云わんよりは寧《むし》ろ矛盾《むじゅん》の淋《さび》しみを感じた。幽霊の媒妁《ばいしゃく》で、結婚の儀式を行ったら、斯《こ》んな心持《こゝろもち》ではあるまいかと、立ちながら考えた。凡《すべ》て此《こ》の老令嬢の黒い影の動く所は、生気《せいき》を失って、忽《たちま》ち古蹟《こせき》に変化する様《よう》に思われる。誤って其《そ》の肉に触れゝば、触れた人の血が、其所《そこ》丈《だけ》冷たくなるとしか想像出来ない。自分は戸の外《そと》に消えてゆく女の足音に半《なか》ば頭《こうべ》を回《めぐ》らした。
 老令嬢が出て行ったあとで、自分とK君は忽《たちま》ち親しくなって仕舞った。K君の部屋は美くしい絨氈《じゅうたん》が敷いてあって、白絹《しらぎぬ》の窓掛《まどかけ》が下《さ》がっていて、立派な安楽椅子《あんらくいす》とロッキング・チェアが備え附けてある上に、小さな寝室が別に附属している。何より嬉しいのは断《た》えず煖炉《ストーブ》に火を焚《た》いて、惜気《おしげ》もなく光った石炭を崩している事である。
 是れから自分はK君の部屋で、K君と二人《ふたり》で茶を飲むことにした。昼はよく近所の料理店《りょうりや》へ一所《いっしょ》に出掛けた。勘定《かんじょう》は必ずK君が払って呉れた。K君は何《なん》でも築港《ちっこう》の調査に来ているとか云って、大分《だいぶ》金《かね》を持っていた。家《うち》にいると、海老茶《えびちゃ》の繻子《しゅす》に花鳥《かちょう》の刺繍《ぬいとり》のあるドレッシング・ガウンを着て、甚《はなは》だ愉快そうであった。之《これ》に反して自分は日本《にっぽん》を出た儘《まゝ》の着物が大分《だいぶ》汚《よご》れて、見共《みとも》ない始末《しまつ》であった。K君は余りだと云って新調の費用を貸して呉れた。
 二週間の間K君と自分とは色々な事を話した。K君が、今に慶応《けいおう》内閣を作るんだと云った事がある。慶応《けいおう》年間に生れたもの丈《だけ》で内閣を作るから慶応《けいおう》内閣と云うんだそうである。自分に、君は何時《いつ》の生れかと聞くから慶応《けいおう》三年だと答えたら、それじゃ、閣員の資格があると笑っていた。K君は慥《たし》か慶応《けいおう》二年か元年生れだと覚えている。自分はもう一年の事で、K君と共に枢機《すうき》に参する権利を失う所であった。
 こんな面白《おもしろ》い話をしている間に、時々下の家族が噂に上《のぼ》る事があった。するとK君は何時《いつ》でも眉《まゆ》をひそめて、首を振っていた。アグニスと云う小さい女が一番|可愛想《かあいそう》だと云っていた。アグニスは朝になると石炭をK君の部屋に持って来る。昼過《ひるすぎ》には茶とバタと麺麭《パン》を持って来る。だまって持って来て、だまって置いて帰る。いつ見ても蒼褪《あおざ》めた顔をして、大きな潤《うるおい》のある眼で一寸《ちょっと》挨拶《あいさつ》をする丈《だけ》である。影の様《よう》にあらわれては影の様《よう》に下《お》りて行《ゆ》く。嘗《かつ》て足音のした試《ため》しがない。
 ある時自分は、不愉快だから、此《こ》の家《うち》を出ようと思うとK君に告げた。K君は賛成して、自分はこうして調査の為|方々《ほう/″\》飛び歩いている身体《からだ》だから、構わないが、君|抔《など》は、もっとコンフォタブルな所へ落ち着いて勉強したら可《よ》かろうと云う注意をした。其《そ》の時K君は地中海の向側《むこうがわ》へ渡るんだと云って、しきりに旅装《りょそう》をとゝのえていた。
 自分が下宿を出るとき、老令嬢は切《せつ》に思いとまる様《よう》にと頼んだ。下宿料は負ける、K君のいない間は、あの部屋を使っても構わないと迄云ったが、自分はとう/\南の方《ほう》へ移って仕舞った。同時にK君も遠くへ行って仕舞った。
 二三箇月してから、突然K君の手紙に接した。旅から帰って来た。当分|此処《ここ》にいるから遊びに来いと書いてあった。すぐ行《ゆ》きたかったけれども、色々|都合《つごう》があって、北の果《はて》迄|推《お》し掛ける時間がなかった。一週間程して、イスリントン迄|行《ゆ》く用事が出来たのを幸いに、帰りにK君の所へ回って見た。
 表《おもて》二階の窓から、例の羽二重《はぶたえ》の窓掛《まどかけ》が引き絞《しぼ》った儘《まゝ》硝子《ガラス》に映《うつ》っている。自分は暖かい煖炉《ストーブ》と、海老茶《えびちゃ》の繻子《しゅす》の刺繍《ぬいとり》と、安楽椅子と、快活なK君の旅行談を予想して、勇んで、門を入《はい》って、階段を駆け上《あが》る様《よう》に敲子《ノッカー》をとん/\と打った。戸の向側《むこうがわ》に足音がしないから、通じないのかと思って、再び敲子《ノッカー》に手を掛けようとする途端《とたん》に、戸が自然《じねん》と開《あ》いた。自分は敷居《しきい》から一歩なかへ足を踏み込んだ。そうして、詫《わ》びる様《よう》に自分をじっと見上げているアグニスと顔を合わした。其《そ》の時|此《こ》の三箇月程忘れていた、過去の下宿の匂《におい》が、狭い廊下の真中《まんなか》で、自分の嗅覚を、稲妻《いなずま》の閃《ひら》めく如く、刺激した。其《そ》の匂《におい》のうちには、黒い髪と黒い眼と、クルーゲルの様《よう》な顔と、アグニスに似た息子と、息子の影の様《よう》なアグニスと、彼等の間に蟠《わだか》まる秘密を、一度に一|斉《せい》に含んでいた。自分は此《こ》の匂《におい》を嗅《か》いだ時、彼等の情意、動作、言語、顔色《がんしょく》を、あざやかに暗い地獄の裏に認めた。自分は二階へ上がってK君に逢うに堪《た》えなかった。

       下宿

 始めて下宿をしたのは北の高台である。赤煉瓦《あかれんが》の小《こ》じんまりした二階|建《だて》が気に入ったので、割合に高い一週二|磅《ポンド》の宿料《しゅくりょう》を払って、裏の部屋を一間《ひとま》借り受けた。其《そ》の時|表《おもて》を専領《せんりょう》しているK氏は目下《もっか》蘇格蘭《スコットランド》巡遊中で暫《しばら》くは帰らないのだと主婦の説明があった。
 主婦と云うのは、眼の凹《くぼ》んだ、鼻のしゃくれた、顎《あご》と頬《ほゝ》の尖《とが》った、鋭《するど》い顔の女で、一寸《ちょっと》見ると、年《とし》恰好《かっこう》の判断が出来ない程、女性を超越《ちょうえつ》して居《い》る。疳《かん》、僻《ひが》み、意地、利《き》かぬ気、疑惑、あらゆる弱点が、穏《おだや》かな眼鼻を散々《さん/″\》に弄《もてあそ》んだ結果、こう拗《ひ》ねくれた人相《にんそう》になったのではあるまいかと自分は考えた。
 主婦は北の国に似合わしからぬ黒い髪と黒い眸《ひとみ》を有《も》っていた。けれども言語は普通の英吉利人《イギリスじん》と少しも違った所がない。引き移った当日、階下《した》から茶の案内があったので、降りて行って見ると、家族は誰《たれ》もいない。北向《きたむき》の小さい食堂に、自分は主婦とたった二人《ふたり》差向《さしむか》いに坐った。日の当《あた》った事のない様《よう》に薄暗い部屋を見回すと、マントルピースの上に淋《さび》しい水仙が活《い》けてあった。主婦は自分に茶だの焼麺麭《トースト》を勧《すゝ》めながら、四方山《よもやま》の話をした。其《そ》の時何かの拍子《ひょうし》で、生れ故郷《こきょう》は英吉利《イギリス》ではない、仏蘭西《フランス》であるという事を打ち明けた。そうして黒い眼を動かして、後《うしろ》の硝子壜《ガラスびん》に插《さ》してある水仙を顧《かえ》りみながら、英吉利《イギリス》は曇っていて、寒くて不可《いけ》ないと云った。花でも此《こ》の通り奇麗でないと教えた積《つも》りなのだろう。
 自分は肚《はら》の中で此《こ》の水仙の乏《とぼ》しく咲いた模様と、此《こ》の女のひすばった頬《ほゝ》の中を流れている、色の褪《さ》めた血の瀝《したゝり》とを比較して、遠い仏蘭西《フランス》で見るべき暖《あたゝ》かな夢を想像した。主婦の黒い髪や黒い眼の裏《うち》には、幾年《いくねん》の昔に消えた春の匂《におい》の空《むな》しき歴史があるのだろう。あなたは仏蘭西語《フランスご》を話しますかと聞いた。いゝやと答えようとする舌先を遮《さえぎ》って、二三句続け様《ざま》に、滑《なめ》らかな南の方《ほう》の言葉を使った。斯《こ》ういう骨の勝った咽喉《のど》から、どうして出るだろうと思う位《くらい》美しいアクセントであった。
 其《その》夕、晩餐《ばんさん》の時は、頭の禿《は》げた髯《ひげ》の白い老人が卓《たく》に着いた。是が私《わたくし》の親父《おやじ》ですと主婦から紹介されたので始めて主人は年寄《としより》であったんだと気が附いた。此《こ》の主人は妙《みょう》な言葉遣《こつばづかい》をする。一寸《ちょっと》聞いても決して英人《えいじん》ではない。成程《なるほど》親子して、海峡《かいきょう》を渡って、倫敦《ロンドン》へ落ち附いたものだなと合点《がてん》した。すると老人が私《わたくし》は独逸人《ドイツじん》であると、尋ねもせぬのに向うから名乗って出た。自分は少し見当《けんとう》が外《はず》れたので、そうですかと云った限《き》りであった。
 部屋へ帰って、書物を読んでいると、妙《みょう》に下の親子が気に懸《かゝ》って堪《たま》らない。あの爺《じい》さんは骨張った娘と較《くら》べて何処《どこ》も似た所がない。顔中が腫《は》れ上《あが》った様《よう》に膨《ふく》れている真中《まんなか》に、ずんぐりした肉の多い鼻が寝転《ねころ》んで、細い眼が二つ着いている。南亜《なんあ》の大統領にクルーゲルと云うのがあった。あれによく似ている。すっきりと心持《こゝろもち》よく此方《こっち》の眸《ひとみ》に映《うつ》る顔ではない。其《そ》の上娘に対しての物の云い方《かた》が和気《わき》を欠いている。歯が利《き》かなくって、もご/\している癖に何《なん》となく調子の荒い所が見える。娘も阿爺《おやじ》に対するときは、険相《けんそう》な顔がいとゞ険相《けんそう》になる様《よう》に見える。どうしても普通の親子ではない。――自分は斯《こ》う考えて寝た。
 翌日《よくじつ》朝飯《あさめし》を食いに下《お》りると、昨夕《ゆうべ》の親子の外《ほか》に、又|一人《ひとり》家族が殖《ふ》えている。新しく食卓に連《つら》なった人は、血色《けっしょく》の好《い》い、愛嬌のある。四十|恰好《がっこう》の男である。自分は食堂の入口で此《こ》の男の顔を見た時、始めて、生気《せいき》のある人間社会に住んでいる様《よう》な心持ちがした。my《マイ》 brother《ブラザー》 と主婦が其《そ》の男を自分に紹介した。矢っ張り亭主では無かったのである。然《しか》し兄弟とはどうしても受取《うけと》れない位《くらい》顔立《かおだち》が違っていた。
 其《そ》の日は中食《ちゅうじき》を外《そと》でして、三時過ぎに帰って、自分の部屋へ這入ると間《ま》もなく、茶を飲みに来いと云って呼びにきた。今日も曇っている。薄暗い食堂の戸を開《あ》けると、主婦がたった一人《ひとり》煖炉《ストーブ》の横に茶器を控《ひか》えて坐っていた。石炭を燃《もや》して呉れたので、幾分《いくぶん》か陽気な感じがした。燃えついた許《ばか》りの※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64]《ほのお》に照らされた主婦の顔を見ると、うすく火熱《ほて》った上に、心持《こゝろもち》御白粉《おしろい》を塗《つ》けている。自分は部屋の入り口で化粧の淋《さび》しみと云う事を、しみ/″\と悟った。主婦は自分の印象を見抜いた様《よう》な眼遣《めづか》いをした。自分が主婦から一家の事情を聞いたのは此《こ》の時である。
 主婦の母は、二十五年の昔、ある仏蘭西人《フランスじん》に嫁《とつ》いで、此《こ》の娘を挙《あ》げた。幾年《いくねん》か連れ添った後《のち》夫《おっと》は死んだ。母は娘の手を引いて、再び独逸人《ドイツじん》の許《もと》に嫁《とつ》いだ。その独逸人《ドイツじん》が昨夜《ゆうべ》の老人である。今では倫敦《ロンドン》のウェスト・エンドで仕立屋の店を出して、毎日々々そこへ通勤している。先妻の子も同じ店で働いているが、親子非常に仲が悪い。一つ家《うち》にいても、口を利《き》いた事がない。息子は夜|屹度《きっと》遅く帰る。玄関で靴を脱いで足袋《たび》跣足《はだし》になって、爺《おやじ》に知れない様《よう》に廊下を通って、自分の部屋へ這入って寝て仕舞う。母は余程前に失《な》くなった。死ぬ時に自分の事を呉々《くれ/″\》も云い置いて死んだのだが、母の財産はみんな阿爺《おやじ》の手に渡って、一銭も自由にする事が出来ない。仕方がないから、こうして下宿をして小遣《こづかい》を拵《こしら》えるのである。アグニスは――
 主婦は夫《そ》れより先を語らなかった。アグニスと云うのは此処《ここ》のうちに使われている十三四の女の子の名である。自分は其《そ》の時|今朝《けさ》見た息子の顔と、アグニスとの間に何処《どこ》か似た所がある様《よう》な気がした。恰《あたか》もアグニスは焼麺麭《トースト》を抱《かゝ》えて廚《くりや》から出て来た。
 「アグニス、焼麺麭《トースト》を食べるかい」
 アグニスは黙って、一|片《ぺん》の焼麺麭《トースト》を受けて又|廚《くりや》の方《ほう》へ退《しりぞ》いた。
 一箇月の後《のち》自分は此《こ》の下宿を去った。

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